2006年12月27日

猫神様物語(5)

猫神様物語(5)

2月22日…。祭り当日の朝を迎えた…。
太鼓の音や笛の囃しが、祭りの雰囲気を盛り上げている。
その音は、閉じこめられている私の所にも聴こえた。
その音が聞こえるということは、もうカウントダウンが始まっているのだ。
今日、私は殺される…。その事実は絶対に覆らない。
せめて、楽に殺してほしい…。
「猫神様…。本当にいるのなら…私を助けて…」
その願いは…届かなかった。
だって…猫神様と言う神様は存在しないのだから。
いない神に願っても、意味がない事だった。
その証拠に、猫がやってきた。猫の目をした人間が…。
竹村さんだった。
「今日がお前の最後だ。何か言いたい事があるなら聞こう」
私は、一息ついてから応えた。
「…私はあなたが好きでした」
「そうか。そいつは嬉しいな」
「でも今は…憎い!あなたも英子も!村長もみんな憎い!!」
私は竹村さんを睨みつける。彼はそれにまったく動じない。
「あはは。いいねその目。僕は好きだよ」
「…くっ!」
「祭りは夜からだからね。それまで休んでて」
彼はそう言うと、食事を置いて出ていった。
食事はもう手をつけたくない。
そのまま深い眠りについた…。昨日は眠れなかったから、限界だった。
目を覚ます前に、全て終わっていたら…少なくとも儀式を見ずに済む…。
だからこのまま起きたくなかった…。そんな訳にもいかないのだが…。

目が覚めた時、男がいた。どうやら迎えが来たらしい。
「時間だ。こい」
牢の鍵を開けた。
逃げるなら今はチャンスだ…。
でも私は逃げなかった。
空腹で体力もなくなって、逃げ切れる自信がない。
「祭りが始まったんですね…」
「あなたは主役ですからね。あなたがいないと始まりません」
私は覚悟を決めて、立ち上がった。
「早く連れて行って!!」
「ではこちらに…」
私は神社の祭壇に連れられた。
鮮やかな炎の中、祭囃しが聴こえてくる…。
村人たちのように、今年も楽しい祭りをしたかった…。
今年の祭りは、去年とは明らかに違った。
「ここに地下室があるんですよ。ここで儀式を行います」
「こんな所があったのね…。知らなかったわ」
「あなたには知らせていませんから…。ではこちらに…。みんなお待ちかねです」
中には数人の男たちが、異様な目つきで、台を囲んでいた。
私は、全裸で台の上に拘束された。両手両足の自由を奪われた。
「私を殺すなら早くして!!」
「いや、殺すのは後じゃ。先に愉しませてもらうぞ」
その声は、村長だった。
私の知る藤吉郎おじいちゃんとは全く違う、恐ろしい声…。
「おじいちゃん…」
村人の後ろから姿を現した。
「まだわしをおじいちゃんと呼んでくれるのか…いい子じゃの」
「お前は…悪魔だ!!私のおじいちゃんを返せ!そしてお前は消えろ!!」
「わしはここにいるではないか。わしが見えぬのか?」
私の知る藤吉郎おじいちゃんは…こんな顔をしない。
こんな酷い事をするはずがないのだ。
「おじいちゃんの振りをするな!」
「ははは。最後にお前に教えてやろう。猫宮祭の儀式を…」
それは、毎年鼠谷村の人や村八分の人をさらって、生贄にして愉しむというものだった。
「昔から良く言うじゃろ。生贄の処女の血を神に捧げるとご加護があると…」
猫宮祭の儀式とは、ただ欲望を満たす為の行為をすることだった。
猫神様に捧げるのではなく…自分たちが神様で…私は村人たちの生贄という事だった。
私は最後に訊いた…。
「猫神様は本当にいるの?」
「そんな神様いるわけないじゃろ!いると信じる奴らが村にいるから、その村人の為に猫神様を奉ってるふりをしてるだけじゃ」
と、村長は言った。
それは猫神様の存在を根底から覆すものだった。
「やはり猫神様はいなかったのね…。いたら私を助けてくれるはずだもの…」
「話はもういいじゃろ。さっそく始めるとしよう」
儀式は始まった…。
それはただ苦痛と恥辱で…儀式とは名前ばかりの行為だった。
その中で、私は決心する。
私が猫神様になる!!そして、村に天罰を与えてやる!!
二度とこんな儀式が起こらないように…。
私はこの日を絶対に忘れない!!
猫神様になって、村の行く末を見届けてやる!
そして大声で笑ってやる!ざまあみろって…。
「あはははははは!!!!」
「何がおかしい!」
藤吉郎は驚きのあまり叫んだ。あまりの気持ち悪い顔に虫酸が走る…。
「あんたらの顔は忘れない!必ず私が猫神様になってあんたらを地獄に落とす!!!後で後悔しても!もう遅い!!あはははははは!!!」
「こいつ…。もういい!殺せ!殺せぇ!」
「あはははは…はは…は…」
私は、声が出なくなるまで笑い続けた。
その声は…止まった。
私は殺されたのだ。
心臓にナイフを突き刺すと言う、やけにあっさりとした殺し方。
彼らにとって儀式とは殺すことじゃなく、その前の行為だから、殺し方は何でも良かったのだろう。

私は死ぬ直前まで願い続けた。
私は猫神様になる!!そして罪深き彼らに天罰を下す!!

……………………。

その年…大きな地震が猫宮村を襲った。
関東大震災だった。
多数の被害者を出したこの震災で、猫宮村の住人の多数が死亡した。
猫宮藤吉郎や…竹村さん、中野英子らも、犠牲になった。
しかし、驚いたことに鼠谷村の村人全員と、猫宮村の村人の半数は奇跡的に無事だった。
これは猫神様が守ってくれたんだ…。と人々は言った。
それはますます猫神様信仰を強め、しばらくは村人を生贄に捧げていたが、いつしか生贄に人を使うこともなくなった。
変わりに人形を使ってそれを生贄に捧げ、燃やすという儀式に変わった。
猫神様なんだからネズミを捧げればいいのにと思うが、昔からの伝統は消えなかったらしい。
退屈な祭りを盛り上げる為に、鬼ごっこを遊びに取り入れた。
時代の変化だろう。
そして、猫宮村と鼠谷村は僅かだが友好的な関係を築いていった…。
こうして、猫宮祭は今もずっと続いている…。
生贄の真実を知ることのない人々によって…。

「これが私が見た猫宮村…」
私は初め猫神様になった時、この村が滅べばいいのにとすら願った。
地震が起きたのは全くの偶然で、私のせいじゃない。
偶然で猫宮村に天罰が下った。だから私はもう恨む事を止めた。
ただ傍観するだけになった…。
でも、最近面白い人が現れた。
それが吉野翔太だった。
「これからは楽しくなってきそうね…」
私はまた猫神様物語と書かれた童話を手に取る。
「だからこれは捨てた方がいいわね」
私は童話を火に投げ込んだ。
その本は、白煙をあげて消えた。
これからどんな事が起きるのか…私はまだ見守り続けなければいけない。
私はこれから、猫宮村の未来を見届ける…。

猫神様は私だから…。

おわり

――――――――――――――――――――――
あとがき
いかがでしたでしょうか(-ω-)
これでひとまず、猫神様物語は終了です。
次回作はまた違ったジャンルの作品を書きたいと思っています。
この作品は、前作の続編というか前編という位置付けになっています。
まあ、既に次回作は書き始めているのですが、発表はいつできるやら・・・w

ではまた(-ω-)
                           にゃむ

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猫神様物語(4)

猫神様物語(4)

「どうして私の名前を…。さては村長から聞いたんだね」
「違うわ。私はあなたの…母親よ!」
息を切らしながら、その人は言った。
「嘘をつくな!!私の両親は事故で死んだんだ!そんな私を藤吉郎おじいちゃんは引き取ってくれたんだ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!」
この人は私を騙す気だ。
干支では猫を騙せても、私は騙されないぞ!
「あなたは四歳の時、猫宮村にさらわれたのよ!四歳の頃の話だからきっと記憶があるはずよ!」
「嘘だぁっ!!!」
私は斧を振り上げる。
そして…斧は……振り下ろされ…ずに、止まる。
「よせ!!こんな馬鹿な真似はやめなさい!」
私の後ろにきた男の人が斧を止めたのだ。
徐々に人が集まってくる。
…うるさい。
「く…邪魔をするなぁ!!!」
「会長!危ない!!逃げて!」
会長?そうか!こいつが村長の言っていた岡田って奴か!
「あんたが会長か!竹村さんを返せ!」
「竹村さんなど知らん!そもそも…私らは猫宮村を無理やり取るなんて事はしない!話し合いで決着がついたはずだ!」
こいつも嘘つきだ。あの日、電話してきたじゃないか!
「じゃあ毎日村に嫌がらせしてたのは?あれは誰がやったの?」
「村に嫌がらせ?」
岡田会長は…全く心当たりがないみたいだったが、これは演技だ。
騙されちゃいけないんだ。
「私らは何もしておらん。何かの間違いだ!それは誰から聞いたんだね?」
「全部、藤吉郎おじいちゃんが言ったんだ!昨日あんたは電話をかけたじゃないか」
そうだ。私が昨日電話に出た。それが証拠だ。
「私は電話などかけてはいない!猫宮村長が嘘をついているかもしれんだろ!目を覚ませ!!」
「おじいちゃんを嘘つき呼ばわりするなぁ!!このネズミが!」
「よく聞け!お前は…自分の祖父を殺したんだぞ!!お前は…猫宮村に利用されたんだ!!」
嘘だ…。私の両親は事故で死んだ。そう藤吉郎おじいちゃんに聞かされていた。
おじいちゃんが嘘をついてるはずがない…。私をここまで育ててくれたおじいちゃんが嘘をつくなんて…。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「落ち着いて!…幸子!幸子!!」
私は、ここにいるのが耐えきれず、逃げ出した…。
「幸子!誰か捕まえてくれ!」
「しかし…斧を振り回して錯乱していますから…危険ですよ!」
と、村の若者が言った。
「どけぇぇぇ!!」
身の危険を感じた村人が道を開ける。
錯乱している人間を止めることは、誰にもできなかった。
「もういいんです」
「追わないんですか?あの子は人を殺したんですよ?」
「…あの子はもう猫宮村にとり憑かれたんです…。だから…あの子の罪は猫宮村の罪です。彼女一人に押しつけるのは酷です」
猫宮村から、ネズミを狩る猫を派遣して…まんまとネズミを退治したということだろう。
猫は…仲間に騙されたことも気づかずに…ただ竹村さんとかいう人を助ける為に…一人で乗り込んだんだろう…。
「あの子ともう二度と会えないような気がします…」
「そんな事言わないでください。きっとわかってくれますよ」
「私はあの子の母親です…。幸子はとても悲しい目をしていた…。きっと最後に神様が会わせてくれたのかもしれませんね…。こんな形で会うことになったけど…幸子の顔はあの時のままでした…」
「また会えたらいいですね…。今度はあの子が猫宮村の呪縛から逃れられたら…」
「ええ…」

日が暮れていた。冬は暗くなるのが早いのはわかる。
竹村さんは…岡田会長の家にもいない。
村をいくら探しても、どこにもいなかった…。
もう殺されたのかもしれない…。
岡田会長の部下が、既に殺していたとしたら…。
私の心は焦りで埋め尽くされる。最悪の事態を考えてしまう…。
でも、いない…。
もう諦めて家に帰ろう。きっと…家に帰ればおじいちゃんが暖かく迎えてくれる。
涙が、溢れてくる。
私は…竹村さんを助けたい一心で、人を殺してしまった。
もう、私の手は汚れている…。
きっと竹村さんは殺しを望んでいない…。
これだけしたんだから…もう駄目だよね…。
竹村さん…ごめんなさい。ごめんなさい。
月が…不気味に輝いていた。

ふらつきながらも、猫宮村の入り口まで戻って来た…。
その時…。
「よう幸子。お疲れさん。よくやってくれたね〜」
「え…?嘘…」
私は目の前の光景を疑った…。
そこにいたのは…竹村さんだった。
「竹村…さん」
でも、何か様子がおかしい…。見ると数人が私を囲んでいた。
それは、クラスメイトだった。
その中には私を襲った…あの男がいた。忘れるはずもない、あの顔だ…。
でも何で…みんなと一緒にいるの?
「なんだ?その不思議そうな顔は。僕は平気だよ?」
「そうだよ。さあ、猫宮村長が待ってるよ。行こうか」
「何…どうなってるの…?」
男たちは、私の肩を掴む。
「さあ、猫宮さん。家にいきましょう」
「あ…」
私は家に連れて行かれた。なんだか囚人のような気分になる…。
いや、実際人を殺した罪人なのだが…。
妙な違和感を感じる…。脳が警鐘を鳴らす…。
…私は、気づいていなかった。
この村の本当の姿に…。

「どうしてこんな所に!」
そこは…倉庫だと思っていた猫宮村長の敷地だ。
でも、なにも入っていなかった。
ただ、鉄格子があるだけだった。
「ここでしばらくいてほしいんだ」
と、竹村さんは言った。
「どうして!こんな所に閉じ込めるの!」
「大丈夫。しばらくの辛抱だから。ご飯もちゃんと持ってくるし、布団だって置いてあるし」
確かに、粗末なせんべい布団が敷いてある。
「竹村さん!どうして…」
「5日後には出られるよ。それまで我慢して」
と、鍵をかけながら、竹村さんは言った。
「5日後…って、猫宮祭の日…」
まさか…。そんな…嘘だ。私は否定の言葉を脳で並べていく…。
でも、彼は淡々と言った。
「そうだよ。君が今年の生贄だよ。おめでとう」
「生贄…!?」
「そうそう。猫宮村長が言ってたんだよ。今年は幸子を生贄にしようって。君にだけ言ってなかったんだよ」
「そんな…藤吉郎おじいちゃんが…」
私はショックで、その場に座り込んだ。
信じていたのに…。
「まあ生贄は猫神様に近づけるって言われてるし、これは名誉な事なんだよ」
その話は知っている。昔から教えられてきた、猫神様という神様の存在…。
生贄は神様に近づけるから…死んでも魂は永遠に救われる…という教え。
私は、これを名誉な事と受け取れるだろうか…。
多分無理だ。
「この斧…血がついてるね。どうしたのかな?」
「…それは!!」
しまった…。
斧はどこか見つからない場所に埋めるか川に捨てるかすれば良かった。
でも、あの状況じゃ隠せる余裕はなかった…。
痛恨のミスだ…。
「あはは。殺したんだね。さては僕を助けに行ってくれたのかな?」
「そ…それは…」
「僕なら最初からこの村にいたのにね」
嘘…。じゃあ私がした事は一体…。
「谷中がおじいちゃんの真似が上手でね。鼠谷村の役員会会長が岡田って言ってね、そいつの名前で電話かけたら幸子が騙されたってわけだ」
「そ…んな…」
私が先に電話に出る事を考えて…偽って電話したんだ…。
そして…藤吉郎おじいちゃんは、それを知ってて演技をしたんだ。
私が隣にいたから…。
思えば最初、数秒間無言だった…。
あれは…私が先に「もしもし」と話すことで私が出たという事を確認したんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私はみんなに騙されてたんだ…。なんで気づかなかったんだ!!
「その後はこいつに君を襲わせて、僕が君を助ける。
それで鼠谷村に僕が捕まった振りをして家でじっとしてるってわけ」
「え!じゃあ…鼠谷村は…」
「全くの無関係だよ。まさか鼠谷村の人を殺したんじゃない?」
私は罠にはまったのだ…。用意周到に仕掛けられた罠に…。
「…酷い!どうしてこんな酷い事を!」
「お前が鼠谷村の人間だからだよ!実は毎年生贄になってる人は鼠谷村から連れてきたり、村八分の人間を連れてくるんだよ」
と、男は言った。
今まで私は…この村の信仰心の高い若い女性が生贄になると思っていた。
でも事実は、よそ者を始末する為の儀式だった。
「君だけ知らないんだね。君はよそ者だからね」
竹村さんはニヤリと笑う。今まで見たこともない、嫌な顔だった…。
私は…よそ者?
という事は…鼠谷村にいる母親と…村長は…私の家族…?
つまり私は…実の家族である鼠谷村の村長を殺してしまったんだ…!!!
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「じゃあ僕たちは帰るね。ご飯は村人が持ってきてくれるよ」
そう言うと、みんなは帰っていった。
…私は放心する。
今まで信じていたものが、音を立てて崩れる。
「ごめんなさい…おじいちゃん」
私は鼠谷村の人間…。猫たちの祭りのディナー。
生贄の儀式がどんなものか、今まで考えたことはなかった…。
鼠谷村の人間や…村八分…って。
生贄はおよそ猫神様信仰とは程遠い人たちだ。
きっと…おそろしい儀式なんだろう。想像するだけで、吐き気がする。
それを猫宮祭で私がされるんだ。
そんな事を考えていると、ご飯が来た。
「これを食べろ!」
「これは?」
美味しそうに焼けた肉が皿に乗っている。
「ネズミの焼肉だ」
…これは、食事じゃない…。とても食べたいとは思えない。わざとゲテモノを食べさせようとしている…。
猫宮祭の日になると、どうせ死ぬのだから、食べなくてもいいような気がする。
でも…空腹には勝てなかった…。

翌日…。朝日が窓から差し込んで目を覚ます。
もちろん窓にも格子が付けられ、脱出することはできない。
そんな時、英子がやって来た。
「大丈夫?幸子」
「うん。平気だよ。でも、どうしてここに…」
何の用だろう…。私を見て笑いに来たのか…?
「良かった。無事で…。心配したよ」
英子だけは私を心配してくれている…。
もしかしたら助けてくれるかも知れない…。
と、思った私が馬鹿だった。
「祭りの前に死んでたら、代わりの生贄捜すの面倒だもんね」
…違う。この人も竹村さんたちと同じだ。
「英ちゃんまでそう言うのか!」
私は英子を睨みつける。しかし英子はそれに動じない。
「そんな怖い顔しないで。冗談だよ。冗談。あはははははははははははははは!!!!」
「ひっ…」
私は耳を塞ぐ…が、英子の笑い声は脳にもはっきりと聞こえていた。
「じゃあ、またね。って多分もう二度と会うことはないだろうけどね。あははははは」
そう言うと、英子は出ていった。
私は肩を落とし、ぺたりと座り込む。

私は…脅えている…。
英子に…この村に…。

つづく

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2006年12月22日

猫神様物語(3)

帰ってきた時、竹村さんの姿がなかった…。
いや、もう分かっている。きっと竹村さんは鼠谷村に拉致されたのだと…。
「竹村さん…」
「全く酷いことをする…。ともかく幸子が無事なだけでも良かった…」
「う…うゎぁぁぁぁぁ…」
竹村さんは…私を助けて…自分が犠牲になったんだ。
「今日はもう遅い。お家に帰ろう」
「そうだよさっちゃん。明日竹村さんが帰ってくるかもしれないじゃろ?逃げたのかもしれんからの…」
村人たちは私を慰めようと、言葉をかける。でも私は、それが耳に入らない…。
「竹村さん…」
私は…竹村さんが捕まったと思っていた。
「きっと…助けるから…」

その夜…一通の電話が鳴る。
私は、どうせ無言電話だろうと思っていたが、もしかしたら竹村さんが見つかったという電話かもしれないと思い直し、受話器を取る…。
「も…もしもし」
「………」
無言電話だった。
私はがっかりして受話器を下ろそうとすると…受話器の向こうから声が聞こえてきた。
「夜分遅く申し訳ございません。猫宮藤吉郎さんのお宅ですか?私は鼠谷村の役員会会長の岡田という者ですが…。藤吉郎さんはおられますかな?」
どうしよう…。藤吉郎おじいちゃんに代わるか…私が対応するか…。
「どうした幸子。誰からだ?」
「あ、おじいちゃん…。鼠谷村の役員会会長って…」
私がそこまで言うと、受話器をひったくって怒鳴った。
「何の用だ!」
「おや?お出ででしたか。いやね。警告は受け取ってくれましたかな?」
「警告じゃと!」
「まあ、そこの娘さんが知っているんじゃないですかね?あの馬鹿がしくじったせいで最後までできなくて残念でしたよ」
「…あれは貴様らの仕業か!よくも…」
「おっと。こちらには人質がいます。もし、我々の要求がのめないのであれば、人質は始末します」
「な…なんという卑怯な…」
「まあ、我々とて全面戦争なんていうのは御免ですからね。明日、村を引き渡してもらいましょう。ではいい返事を待っています」
そういうと、電話は一方的に切れた。
「…ま、まて」
「おじいちゃん…どうしたの?」
「…村人が人質に捕られている…。明日村を引き渡せ…と」
私はその人質が、竹村さんだと…とっさに気づいた。
「…奴らは人質を殺す気だ」
「まさか…そんな」
「私は村長として、みんなの住むこの村を渡す気はない。残念だが人質は諦めるしかない…」
「え…?」
竹村さんが…始末されるって…。諦めるしかないって……。
「そんなの駄目だよ!助けないと」
私はおじいちゃんの足にしがみついて、叫んだ。
「わかってくれ幸子。村は絶対に渡せないんじゃよ」
「いやだいやだ!必ず助けて!その村人は私を助けてくれたんだよ?だから助けて!」
「その気持ちはよくわかるが…人一人と村人全員を天秤にかけると、どっちがわしのとるべき対応かわかるじゃろ?」
「わからないよそんなの!!一人でも村人だよ!助けなきゃ!」
「いい加減にしないか!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は涙が止まらなかった…。
そうだ、猫宮祭で毎年一人ずつ殺してるじゃないか…。
だからおじいちゃんの中で…竹村さんは…村の生贄でしかないんだ。
こうなったら私一人で…竹村さんを救うしかない…。
誰にも頼らずに、一人で…。
私は決意した。鼠谷村に乗り込む決意だ。

翌日…。竹村さんが人質にされたことが学校中で話題になっていた。
私は学校に行く気力をなくしていた…。
でも、もしかしたらきてるかも…という甘い考えで、学校へ行ってしまった。
学校に着いて見回しても、竹村さんの姿はどこにもなかった。
「竹村のやつ捕まったんだろ?」
「俺婆ちゃんに聞いたよ。なんか変質者から助けた時に捕まったんだってよ。確か…猫宮を助けたんだって」
「そうなんだ。可哀想に…」
噂が広まるのは早い。ましてやここは人数の少ない田舎村だ。
その男の一人は…こう言った。
「猫宮の犠牲になったんだろうな」
私は…何も言い返せなかった…。
みんな…今日は私を避けているような気がする。
女子たちは…猫宮さんが捕まったら良かったのになどと、とんでもない事を言い出した。人気者の竹村さんと、冴えない一般女子の私とでは、どっちが要らないかは明らかだった。
「幸子…。気にしないで」
英ちゃんが慰めようと声をかけた。
「うん…。大丈夫だよ。平気だから」
「幸子も大変だったんだよね…。竹村さんに助けてもらえなきゃ…今頃…」
「私が犠牲になってたら、みんな喜んでたのかな…」
「そんなことない!あたしは幸子が無事でいてくれたから良かったと思ってる…。確かに竹村さんがいないのは辛いけど…」
「ありがとう…。英ちゃん」
英ちゃんは私の親友だ。そうだ!竹村さんを助ける為に、英ちゃんに協力してもらえないだろうか…。
私一人では…きっと無理だ。
「あのね…英ちゃんに頼みがあるんだけど…。竹村さんを助ける為に協力して欲しい」
「え…それは…」
しかし、私の期待していた言葉とは…正反対の返事が返ってきた。
「ごめん。無理」
「無理…って」
「だってそうでしょ!大人が相手じゃ、あたしらだけじゃどうにもならない」
私は落胆する…。
さっきまであんなに意気込んでた私はどこかに飛んでいった…。
他の人にも頼んでみよう。もし駄目ならどうしようと、不安が押し寄せる。
でも、今は聞いてみるしかない。
「みんな…聞いて!一緒に竹村さんを助けて」
「馬鹿いえ。無理に決まってるだろ。あいつら村荒らすような連中なんだろ?俺らも殺されちまう」
「鼠谷村には関わらない方がいいよ…」
女子たちは…私に恨みの目を向ける。
「あんたが助けに行けばいいじゃない!」
「こうなったのもあんたのせいよ!あんたなんか死んじゃえ!」
っ……。
こう言われる事は分かっていた…。
言葉がナイフのように私を突き刺した。
こうなったら、私は一人で助けなきゃいけないのだ。
時間が惜しい…。
今日しか助けられる時間はない。私は学校を早退した。

何か武器があれば…大人たちにも対抗できる。
私は、武器を探すため、家に戻った。
どうやら、おじいちゃんはいないみたいだ。
物置を探ると、薪割りに使う斧を見つけた。
「これは…使えるかもしれない」
私は、その斧を手にとる。
思ったより重い。でも、そのぶん破壊力はありそうだ。
でも、このまま持ち歩くわけにはいかない。
私は斧を風呂敷の中にいれ、鼠谷村に向かった。
隣にあるとはいえ、歩きだと遠い。でも、歩くしかない。
冬の風が冷たく頬を通り過ぎる。

どれだけ歩いただろう…。ようやく鼠谷村の看板が見えてくる。
私は…鼠を狩る猫なのかもしれない。
鼠谷村の村人が…獲物に見えてしまう。
…ダメだ。敵は村長だ。村人に罪はないんだから。
きっと村長が竹村さんを拉致してるんだ。
額に汗が浮かぶ。私は村人に、村長の家を訊ねた。
「それなら向こうの森の近くだよ。それにしてもあんさん見かけん顔じゃの」
「あ、私は鼠谷村に住んでる親戚に会いにきたんです。そこで親戚が村長の家に行ってるみたいで…」
私は猫宮村の人だとバレないように嘘をついた。
「そうか。そりゃこの寒い中ご苦労じゃの…」
「では失礼します」
私はさっさと村人から離れた。あまり話をすればボロが出て疑われる。
しばらく歩くと、村人に教わった村長の家に着いた。

「ここが…鼠谷村の村長の家…」
村長だけあって、やはり広い、立派な家だった。入り口には門を構え、屋根は瓦を使っていた。
「こんにちは。村長さんはいますか〜」
私は玄関までくると、村長を呼び出した。
「誰かな?…用事なら後にしてほしいが。おや…あなたは確か猫宮村長のお孫さんかの…?」
来た…!こいつが諸悪の根源だ!
「さては村を譲る話の返事ですかな?今はわししかおらんでの…。出直して頂きたいのだが」
今、家にはこいつしかいないと、自分で言った。
これはチャンスだ…。
「…竹村さんを返して!」
私は勇気を振り絞って、言った。でも、村長はとぼけていた。
「竹村さん?それは誰かな?」
「しらばっくれないで!あなたが指示して私を襲って、助けてくれた竹村さんを連れていったんだ!」
「違う。わしはそんな指示はしておらん!!何かの間違いではないのかね?」
「まだ言うか!竹村さんを返して!」
私は隠し持っていた斧を取り出し、構える。
「な…。わしは何も…。まさか…役員会が…。そうじゃ!役員会の岡田がしっとるかもしれん…」
「岡田?」
「ああ、わしは村の事は岡田会長に任せておる。わしが知らないならきっと岡田会長が…」
「信じられるか!ネズミめ!!苦し紛れに嘘をつくな!!竹村さんを返せぇぇぇぇ!!」
「ま…まて…。ぐ…」
…私の持っていた斧は…村長の頭に突き刺さった。
力いっぱい振り下ろした斧は、村長の頭部をぱっくりと割る…。
それは薪割りのようだった。でも、薪割りのような爽快な音はでない…。
骨の砕ける鈍い音がしただけだった。
村長は即死だった。
返り血を浴びながら…私は、狂ったように笑う…。
「あはははははははははははははは!!やった!」
ああ、そういえば今思い出す…。
小さい頃聞いた昔話で、ネズミに襲われた猫宮村が、救世主によって救われたという話…。
そうだ。私が救世主なんだ!!
私は猫宮村を救う救世主なんだ!!
「後は竹村さんを助けるだけで…全てが終わる」
竹村さんの居場所は、きっと村長が言っていた岡田会長が知っているはず…。
そいつはきっと共犯者なんだ。
血がべとべとして、気持ち悪い…。
私は上着を脱いで…村長の家のたんすを漁る。
そこで女の子用の服を見つけた。
随分小さい服だ…。孫でもいるのか。
その服には、マジックで名前が書いてあった。

幸子。

「幸子…か」
私はその名前が気になった。同じ名前の人くらい沢山いる。
だから、別に気にするほどの事でもないのだ。
でもその服が…気になっていた。
さっさと着替えて出ていくことにする。家の人が帰ってくるかもしれない。
その時…。玄関で悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!おじいちゃんが!!!」
「なんてことを…」
その声と同時に、私は窓を開け、外に飛び出した。
「誰か!誰か来てくれ!!村長さんが…」
逃げなきゃ…。捕まったら私が殺される…。騒ぎがどんどん大きくなる…。
素早く、近くの森の中に駆け込む。ここなら逃げきれるはず…。
しかし…村長の娘が追いかけて来た。
「待って!あなたは…」
この服がまずかったらしい。村長の娘のお気に入りの服なのか…それを私が着ているのだ。
怪しむのは当然だった。その服を選ぶ私も、趣味が似ているんだろうか。
しかし、帰ってきた言葉は…全く想像していない言葉だった。
「幸子…どうして…ここに」

つづく
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猫神様物語(2)

多数の犠牲者と共に第一次世界大戦も終わった…大正時代。
猫宮村はある危機に陥っていた。
鼠谷町…当時の鼠谷村は、猫宮村と合併しようと考え、話し合いを持ちかけていた。
しかし猫宮村村長の猫宮藤吉郎は、その提案に断固反対した。
自分たちの村は自分たちだけのものだ!!と言うのだ。
鼠谷村としては合併して、猫宮村の広大な敷地に村人を住まわせるつもりだったらしい。
さらに猫宮村の資金が魅力的だった。猫宮村は村にしては金持ちだったのだ。
特に猫宮藤吉郎の住む家は猫宮村一の大きな屋敷だった。
そう、鼠谷村は、自分たちの土地だけでは飽きたらず、猫宮村にも手を伸ばそうとしたわけである。
村長同士の対談の場を設けた席でも、話は平行線を辿った。
「猫宮村長。どうしても首を縦にはふってくれないのですな?」
「何度も言ってるじゃろ!わしらは合併する気はない!」
「そうですか。きっと後悔しますよ?いいんですね?」
鼠谷村の村長は不敵な笑みを浮かべて言った。
それは脅しだった。
しかし、猫宮村長は気がつけなかった…。
後に彼は後悔することになった…。
でも、こんな侵略同然の合併話をのむわけにはいかない。猫宮村長の判断は正しかった…。

「どうしたの?幸子?」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた…」
「ははぁ〜。さては竹村さんの事考えてた?」
「ち、違うよ〜。そんなんじゃないって」
「そうやってむきになる所が怪しいね〜」
「う…」
私は赤面する。
ここは猫宮学校…。村唯一の学校だ。木造一階建てで多少ボロい建物だが、人数は多い。学校の後ろには大きなグランドがあって、昼休みや放課後には子供達の遊び場で賑やかになる。
友達の中野英子は、いつも元気で、私に話し掛けてくれる。
初めて友達になってくれたのも彼女だった。私たちは小学校からずっと一緒だった。この時代で学校に通えるのは、やはり村が裕福な証拠だろう。
私はいつも、彼女の笑顔に癒されている…。
その英子が話してる竹村さんは、クラス一モテる男だった。
イケメンとでも言うのだろうか。
「まあ無理だよね。竹村さんって倍率高いもんね」
「違うのに〜」
私は否定していても、やはり彼が気になるのだ。
恋の話に花を咲かせる。そんな年頃だった。
「じゃあ何?どうして悩んでるの?」
「あ…実は」
私は話してもいいものか悩んだが、話すことにした。
「私の祖父が昨日、猫宮村と鼠谷村の合併の話を断ったんだけど…。その日の夜から無言電話がかかってきて眠れなくて…」
「そうなんだ…。きっとやったのは鼠谷村の村長だね。まったく陰湿な事するよね〜!一発ひっぱたいてやりたいよ」
「あはは。ありがとう。でも暴力は駄目だよ」
「まあ、あたしも慣れ親しんだ猫宮村が鼠谷村になるのはごめんだよ」
「うん。そうだね」
話して良かった。私の胸につかえていたものがすっと消えた感じがした。
私の祖父は猫宮藤吉郎…。そして私は猫宮幸子。
幸せな子だから幸子だと思っていた…。
村長の孫だけど、実際は違う。私には両親がいないのだ。
両親は私が幼い時、事故で亡くなった…。
誰も親戚がいない私を村長は引き取ってくれたのだ。
だから私は…幸を求める子で幸子なのかもしれない。
でも、英子はそれを知っても、優しく接してくれた。
「お、そろそろ昼休みも終わりだね。早く行かないと…」
「あ!うん」
私は急いで英子の後をついていった。

季節は2月…。
そういえば、最初の頃は猫宮祭は2月だったっけ…。
たしか…2月22日。猫の日だった。
雪の降る中、屋台やらお祭りのテントをはる。
そして、毎年生贄を使って神を鎮めるのだ…。
子供たちには教えられず、村の神社の中で、それは行われる。
この時代は、生贄を使うという儀式は平気で行われていた。
そう、生贄や拷問は平気で行われている時代…。
今だったら絶対に出来ない…。いや、正確に言えばできる。
だが、あまりにもリスクが高すぎる。
警察に捕まり罪を償う時間を考えると、こんなリスクを背負ってやることではない。
ただ例外がある。死体が見つからなければいい…。
もしかしたら、今現在も地下組織では生贄や拷問を使う儀式か何かが行われているかもしれない。
猫宮祭の生贄は…ランダムで決定される訳ではない。
生贄には若い女性が選ばれると、よく昔話や神話なんかで聞く。
神様というのは好色なんだろう。たしか全知全能の神ゼウスは好色家だったっけ。
そりゃあ生贄に老人は嫌だろう。誰だって若い子がいいに決まってる。
この村の人間は、生贄になるという事を小さい時に教わる。
それは教育というより、洗脳と言えるかもしれない。
生贄になることは死ぬと言うことだ。しかし、死ぬ事によって猫神様に近づけるという洗脳は、村中に根付いていた…。
この儀式を考えたのは誰だろう…。
もし、藤吉郎おじいちゃんだったなら…止めさせる事ができるかも知れない。
私は引き取られたとはいえ猫宮藤吉郎の孫だ。
でも、それは無理…。止めさせられるならとっくに試している。
村の猫神様信仰は異常だから…私がそんな事を言ったら、藤吉郎おじいちゃんは…私を捨てる。
捨てるだけじゃなく…生贄にされるかも知れない…。
普段は温厚で私に優しいけど、猫神様の事になると人が変わってしまい、近寄り難い雰囲気があった。
私だって猫宮祭の事についていろいろと教えられていた。
私も…洗脳されていた。
実際の儀式は見たことがないから、私は何も言えない。
でも気づいている。
毎年、人が居なくなっていることに…。

後になって気づく…。この村には猫神様なんて居なかった事に。
居ない神を信仰して…生贄と言う名の犠牲者を増やしている…。
これは猫神様になった私だから言える…。
今年は誰が生贄になるのだろう…。
そんな疑問が浮かんでいた。
でも、この頃は深く考えていなかった。
神に近づけるんだから、きっと幸せなんだろうと思っていた…。

「どうしましたか?幸子さん」
「あ、先生。何でもありません」
「なんだか顔色が悪いようですが…」
「いえ。大丈夫です」
今は授業中だった…。こんな事を考えるより勉強しないと…。
思うように筆が進まない…。
私は、なんとかその思考を振り払い、勉強を再開した…。

そして、長い授業もようやく終わりを告げる。
「英ちゃん、一緒に帰ろ?」
「あ、ごめん。あたしは今日は係の用事があるんだ。ごめんね」
「あ、そうなんだ。じゃあ私は先に帰ってるね」
私は一人で帰ることになった…。
まあ、ゆっくり帰るかな…。
この村は猫がたくさんいるし、猫と遊ぶのもいいだろう。
この村が猫宮村と呼ばれた理由は、猫がたくさんいるからだった。
きっと猫にとって住みやすい気候なんだろう…。
または餌が豊富だからかもしれない。
私は靴を履き替えると、外に出た。
2月の割に気温が高く、暖かい天気で、昨日積もった雪がほとんど溶けている。
この猫宮村ではあまり雪が降らない。だから冬でも猫にとって住みやすいのだろう。
「にゃ〜〜」
「猫ちゃん。おいで〜」
私は早速近づいてきた猫に、声をかける。
でも……。様子がおかしい…。
その猫は…血まみれだった!胴体に生々しい切り傷が付けられていた。
誰かのいたずらだろうか…。
「酷い…。誰がこんな事を…」
猫はただ、鳴くことしか出来ない…。助けて欲しくても、ただ鳴くだけでしか伝えられないのだ。
「私が助けてあげるから…」
私は猫を抱き抱えると、急いで学校に引き返した。
保健室なら…応急手当てくらいはできるはず…。

保健室で、先生が応急処置を済ませる。
包帯でぐるぐる巻きにされてはいるが、猫は生きている。
「この村にも酷い事をする人がいるんですね…。こんな事をしたら猫神様の罰が当たりますよ」
「そうですね…。猫は私の家でしばらく保護したいと思います」
「それがいいでしょうね。この状態で外にいては危険でしょう。学校に置いておく訳にもいきませんから…」
「では、失礼しました」
私は猫を抱き抱え、保健室を出た。
そこで英ちゃんに会った。
「あれ?まだ帰ってなかったんだ?あたしを待ってくれたの?」
「あ、それは…」
私はさっきまでの出来事を話した。
「そうだったんだ…。酷い奴だねそりゃ。そいつ、猫神様に呪われるよ」
「そうだね…。猫神様はこの村の守り神だもんね」
「そうそう。もうじき猫宮祭があるっていうのにさ〜。これは誰かの陰謀かも…」
「誰かって?」
「鼠谷村の人かもよ?まあ予想だけどね。この村の人はみんな猫神様信者だから、猫神様の使いとも言われる猫を傷つける事なんかしないだろうからね」
「そう考えると…。鼠谷村の嫌がらせは、私の家だけじゃないって事に…」
「気をつけないとね。よそ者をみつけたら警戒しないと」
「うん。そうだね」
私は村長の孫だから…私を誘拐して脅迫したら…村は合併どころか強奪されかねないだろう。
いや、私は猫宮村から捨てられるかもしれない…。
そんなの嫌だ!
「どうした?大丈夫?」
「あ、私は平気だよ〜」
「じゃあ、あたしはまだ係の用事があるから、またね」
「うん。また明日」
私はまた一人で家に帰る…。
いや、猫ちゃんがいるから二人だね。
家に帰る途中、森の中を通る。
「もうすぐ着くよ」
私は猫に話しかけながら、家まで歩いていく。
自転車なんかない時代の、ましてや田舎だから、家までは結構遠い。
でも猫ちゃんとなら平気だった。
その時まで、私は気がつかなかった…。
後ろから…誰かが付いてきていることに…。
振り向いて確認しなきゃ…。
こんな時、振り向くのは勇気がいる。誰もいなければ、気のせいで済むが、もしもいた場合は…。
私がそれに気づいた時には…もう手遅れだった。
「あっ!!」
後ろから、いきなり誰かが抱きついてきたのだ!
「くくく…。あんたが村長の孫か」
私の事を知ってる…。私は英ちゃんの言った言葉を思い出し、恐怖した。
この男は鼠谷村の人だ!!と、咄嗟に思った。
「嫌っ…離して!」
私は暴れて抵抗する…。でも、女の力ではどうしようもない…。
私は護身術など覚えていない…。
さらわれる…。とっさにそう感じたが、どうやら目的が違うらしい…。
私は、地面に倒され、男が馬乗りのような形で上にまたがった。
くっ…猫は離すものか…私が守らなきゃ。
猫を庇っていたため、防御がとれずに倒され、頭を打つ。
頭がくらくらする。
でも気を失ったらそれまでた…。
「にゃ〜〜!!」
猫は、男に飛びかかった。私を助けてくれている…?
「なんだ?邪魔な猫だな…あっちいけ!」
「やめてぇ!!猫ちゃんには乱暴しないでぇ!!」
私は必死で叫ぶ…が、男は猫を掴み取ると…木に投げつけた…。
「あ…あぁ………」
猫はにゃ…と鳴くと、…そのまま、ぴくりとも動かなくなった。
木にくっきりと赤い血が付いていた…。
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
私は力いっぱい叫んだ。涙が…溢れてくる…。
「猫ちゃん!猫ちゃん!猫ちゃん!!!」
「この女!大人しくしろ!!」
男の手が、私の顔を殴る。
「つっ……」
私の顔は次第にビリビリと痛み出す。
でも、心の痛みに比べたら、この程度はどうということはない。
「人殺し!!人殺し…うゎぁぁぁぁ!!」
「たかが猫くらいで騒ぐな。うるさいやつにはお仕置きだぞ」
男は私の口に、タオルを詰める…。私は話すことも、叫ぶこともできなくなった。
くぐもった声を漏らすことしかできない。
汚いタオルが口の中に入って…気持ち悪い…。
「さてと、これから楽しませてもらうか」
「う…う〜〜……」
男の手が…私の服を脱がす…。いや、脱がされているんじゃない。
それは、ただ乱暴に…破られていった。
「抵抗するなよ。死にたくなけりゃな」
そして、男は私のスカートに手をかけた。
…これは、強姦だ。
私はもう、抵抗する気力を失っていた。
やるなら早くしてほしい…。私が目を閉じている隙に…。
「さぁて…おとなしくしたらすぐ済むからな…うげ!」
…あれ?今、なんか変な声が…。
私はおそるおそる目を開けた。
そこに、男はいなかった。近くの木にぶつかって倒れている。
「猫宮さん…大丈夫か?」
その男は背を向けながら言った。どうやら、相手の男に突撃したらしい。
私の口に突っ込まれた…汚いタオルを取ってくれた。
そしてその声は、私がよく知る人だった。
「た…竹村さん…」
「間に合って良かった…。これを着て」
竹村さんは、私に自分で着ていた服を渡した。
「あ…ありがとう」
「あの男は僕が捕まえる。猫宮さんは大人の人を呼んで」
「うん。わかった。気をつけてね…」
私は急いで駆け出す。近くに民家があるはずだ…。
「てめえ!邪魔しやがって!!」
「見かけない顔だな…。さては鼠谷村の人か?」
「ああ。それがどうした!俺の邪魔をする奴はぶっ殺してやる」
男は、近くに落ちていた木の棒をつかみ取ると、振り回した。
「殺してやる…殺してやる…」
「く…こいつ…」
適当に振り向いているために、間合いがとれない。
いくらただの木の棒とはいえ、当たったら危険だ。
でも、しばらく時間を稼げば、助けがきてくれる。それまでの辛抱だ。
その時、大人たちがぞろぞろと駆けつけてきた。
「どうやら間に合ったみたいだ…。あ!」
しかし…その大人たちは、いきなり竹村さんを羽交い締めにして捕まえた。
「何をするんだ!離せ!!」
「危ない所でしたな…」
竹村さんは、悟った。こいつらも…敵だ。自分は敵に捕まったのだ…と。
「せっかくの獲物を邪魔しやがったんだこいつは!!」
「うっ…」
男は竹村さんの腹を殴る。
「この野郎が!!てめえのせいで!!」
「がは…っ…」
「まあまあそのくらいでいいでしょう。とりあえず連れて帰りましょう」
「邪魔なら後で殺せばいいからな…」
「ははははは!そうですな」
と言うと、竹村さんを担ぎ上げ、その場から去っていった。
私が大人たちを連れて戻って来た時には…もう手遅れだった…。

つづく
posted by にゃむ at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

猫神様物語(1)

この作品は、前作の「猫宮村に雫は落ちる…」の前編にあたる話です。
と、書くとなんとなくややこしい気がします(-ω-;)
人殺しについてですが、私は人殺しは許せないのですが、
小説ではよく殺しています(-ω-;)
誰だって一度は人を殺したいと思ったことはあるはずです。
でも、それをしないのが理性なのです。
それを失ったら、きっと恐ろしいことになるでしょう。

だから私は、小説でだけ人を殺します。
ではどうぞ。
                     にゃむ(-ω-)
―――――――――――――――――――――――――――
猫神様物語(1)

昔むかし、猫宮村という村がありました。
この村では、困ったことがあったのです。
村がネズミの大群の被害をうけたのです。
作物を食い荒らすネズミたちのせいで、農家は大きな打撃を受けました。
そして、食べるものが無くなった村人たちは、他の人の食糧を奪い取ったのです。
そのせいで、争いが絶えませんでした。
ついには村人を殺害してしまったのです。
殺した村人には、罪の意識はありませんでした。
食べるものがないと、自分も死んでしまう。
これは自分が生き延びる為には、仕方のない行為だったのです。

そんな混乱の中、救世主が現れたのです。
その救世主は、村に棲みついていたネズミたちを、あっという間に追い払ったのです。

村人たちは感謝しました。
これで食糧が食い荒らされる事は無くなったのです。

ネズミを追い払ってくれた彼女に、村人たちは感謝の意をこめて、祭を始めました。
そして、彼女を猫神様として崇めたのです。
これは、村の名前を取って、猫宮祭と名付けられました。
こうして、村人たちは猫神様に見守られ、平和に過ごしましたとさ…。

☆おしまい☆

「つまらない話ね…」
私は、手に持っていた幼児向けの絵本を閉じて言った。
昔話や神話などには、後に誰かが脚色したものが多い。
私の知る猫神様の昔話は、こんなものじゃない。この絵本の内容とは全く違う…。
どうして私が知っているのかですって…?
それは私が猫神様と言われる存在だから。
私の話を疑うなら好きにすればいい…。
もし、信じてこの話を聞いてくれるなら…耳を傾けてほしい…。
あの頃の猫宮村の話は思い出したくもないけど…みんなに知ってほしいから。

それにしても、今は平和だと思う。
まあ、変な事件はあったけど、解決できて良かったと思う。
吉野翔太…。あの人にちょっとだけ、夢を通して未来を見せた。
そのおかげで、最悪の状態にはならずにすんだ。
私はほっとする…。
みんな猫宮祭が楽しかったらしい…。宴は深夜まで続いていた。
本当の猫宮祭は…前に誰か言ってたっけ。
本物の人間を生贄にしてたっていう話。
あれは本当の話。
その犠牲者の私が言うんだから間違いない事実…。あの頃は今のように楽しい祭りなんかじゃない!
ましてや昔話に書いてあるものは嘘っぱちだ。
近年、ようやく猫宮祭も楽しくなった。私が奉られるのも悪くはない。
私も今の鬼ごっこは楽しい…。混ざりたいくらいだったけど、もう肉体はないのだから、叶わぬ願い…。

それじゃあ、最初から話すわね。
歴史の中に秘匿された…本当の猫宮村の物語を…。

つづく
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2006年12月15日

猫宮村に雫は落ちる…(8)

8.エピローグ

「やったぞ。俺たちの勝利だ!!!」
「やったね!さすが翔ちゃん」
「みんなのおかげだよ。みんなありがとう」
警察にいろいろ聞かれて、ちょっと疲れたけど、なんだか心地よい。
まあ証拠であるテープレコーダーを出したから、奴らは裁かれるだろう…。
叩けば余罪はいくらでも出てきそうな気がする…。
「やっと父殺しの犯人が暴けました…。翔太さんありがとう」
「おう。俺の手にかかればこのくらい楽勝だぜ!」
本当は一度死んだけど…。いや、あれは夢だったんだろうな…。
「あなたに賭けてよかった…」
「俺が犯人が分かったのも、猫神様のおかげだよ」
「猫神様はこの村の守り神だからね。きっと翔ちゃんを守ってくれたんだよ」
「ああ。そうだろうな…。それより、みんなに謝らないとな…。ごめん!俺はみんなを疑ってた」
「そんなことはもういいよ。翔ちゃんは疲れてただけだよ」
「そうそう。みんなもう気にしてないよ」
「ありがとう…みんな…」
俺は、みんなと出会えて良かった。
「まあ、何はともあれあたしたちの勝利だけど…。鬼ごっこはどうなるのかね〜?」
「あ、そうだったね。翔ちゃん、そこで待っててね〜」
「あれは私の獲物です!!」
おいおい…。みんなの目がマジだぞ…。
まるで猛獣の檻に投げ込まれた肉の気分だよ。
「こら〜!逃げるな〜!!」
「いや、普通逃げるって!」
俺たちは、鬼ごっこを楽しんだ。
他に横取りする村人は誰もいない。探検部だけの鬼ごっこ。
久しぶりにこんなに笑った気がする。
「そこ危ないよ!!」
「うわっ!!!」
俺が石につまづいた時…5つの手が同時に触れた。

「結局みんな幸せになったって事だね♪」
「まあ、それでもいいか。猫宮祭始まって以来の事件だけどね。いままで一人だけだったのに、全員ご加護を受けるなんてね」
「まあいいじゃねえか。俺たちはみんな幸せなんだしな」
「あ、でも捕まったネズミは不幸になるって話ですよ」
「え!ほんとかよ!!って事は俺は…」
「一年中不幸で可哀想ですね〜」
「とか言いながら顔が笑ってるし!こらまて〜!」

今度は俺が猫役になった。みんなとの鬼ごっこはまだ終わらない。
日が暮れるまで、はしゃぎまわった。
これからは、きっとこんな楽しい日が続いていく…。
俺は、この村に来て本当に良かった。

終わらない鬼ごっこは…いつまで続く?
ずっと続いてほしい…。こんなに楽しそうなみんながいるから…。
今日は私の祭り。
年に一度の猫宮祭…。

終わり


――――――――――――――――――――――――――――
■あとがき
ども。にゃむ(-ω-)です。
こんな感じで終わらせて見ました。
本当は、バッドエンドで終わらせるつもりだったのですが、
某同人ゲームのようないくつもストーリーを作るのができないもので
この辺で失礼します(-ω-;)w

本当なら、これを出題編にして回答を別に作るのも考えたけど、
一緒にしてしまいました。

なんか展開が速いのは、携帯で書いたということで勘弁(-ω-;)

一応サイドストーリー等は考えておきます。

では、次回作でまた会いましょう。(完成できたらね(-ω-;)
                にゃむ(-ω-)/にゃんだふるふぁーむ
posted by にゃむ at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

猫宮村に雫は落ちる…(7)

7.猫宮村に雫は落ちる…その弐

ここは…どこだ。
起きたてなのか、頭がぼんやりする。辺りを見回して気が付いた。
俺は…どうやら病院のベッドに寝かされているらしい…。
目の前にはカードを入れて見るタイプの小さなテレビと…カーテンが見える。
周りには、みんながいた。心配そうに、俺を見つめていた。
「翔ちゃん!起きて!!目を開けて!!」
馬鹿いうなよ…。俺は起きてるぞ。
今こうしてミーナの顔が見えてるんだから…。
「どうしてこんな事に…」
「もう手遅れだよ…。あたしらが付いていれば…」
見ると、みんな涙を浮かべている。
なんだよ。俺ってそんな重症だったのか?
「先輩がこんな事になるなんて…」
「まさかこの程度で死にはしませんよね?」
「私が…もっと早く知っていたら…」
みんな何を言ってるんだよ。俺が死ぬわけないだろ!
「もう帰ろう。これ以上ここにいちゃいけない…」
「うん…。ごめんね翔ちゃん…」
まってくれ!ミーナ!!みんな…!!
俺の声が届いていないのか…?
俺は、仲間だったみんなを疑ったから…。
あの学校の時みたいな嫌がらせか?笑えない冗談は止めろ!!
それが冗談じゃないと気づいたのは、それからすぐだった。
俺が…もう一人いる…。いや、もうわかってる…。
俺は…死んだのだ。
殺した奴は…中村刑事だ。
今考えると、そもそも刑事なのかも怪しい。
あの二人は…殺人を楽しんで、猫宮祭で村人みんなが祭りに気をとられてる隙に、殺した…。
村人が誰もいないということは、目撃者がいないということだ。
恐らく12年もの間、奴らは殺しを楽しんでいた…。
あいつらが、岡部さんを…殺したんだ!
奴は俺が死ぬ前に言ってたじゃないか!
奴らは刑事になりすまして、俺に近づいてきたんだ!
ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!
俺は叫んだ。やっと犯人がわかったのに…俺は誰にも伝える事ができない…。
俺の叫びは、みんなの耳にはもう、届かない…。
誰か…聞いてください。この事件の真相を…。
そこで、俺の記憶は、テープの切れたビデオのように、ぷつん…と消えた。

猫神様がいるのなら…この事件の真相を聞いてください。
哀れな最後になった、吉野翔太の声に耳を傾けてください。
殺人鬼はまだ、この村にいます。
来年…新たな犠牲者を出さない為に、犯人逮捕に協力を…。

俺の前に光が現れた。その光はとても暖かかった…。
そろそろ天国なんだろうか…。なんだか心地よい気分だ。
するとどこからか…声が聞こえた。
猫神様…?
俺は、聞いたこともないその声を、猫神様だと思った。
俺の前がひときわ眩しく光りだした…。
その光は…俺に見せてくれた。その後の世界を…。

「翔ちゃん。きっと敵はうつからね!」
「必ず村人全員で犯人を見つけるんだ!」
「祭りを荒らすネズミめ!絶対に逃がすものか!!」
「見つけたらハラワタをひきずりだして晒してやる!!」
村人たちの声が、猫宮村に響きわたった。
俺の為に…みんなが結束してくれた。
俺は…みんなを疑ってたのに…。
「まさか2年連続で殺人をおこすとは…」
「きっと犯人は翔太さんをそそのかした人ですね」
「そういえば様子がおかしかったね…。私たちを拒否してた…」
あの廃墟の探検の後、いや、その前からおかしかった。
「おそらく、誰かがよからぬことを吹き込んだんでしょう。あの時先輩は鬼ごっこの為に走ってましたから」
「あのケーキが草むらに落ちてたから…あの時から翔ちゃんはおかしかった…」
ミーナはそのクシャクシャになったケーキを思い出し、涙を浮かべる。
みんなのお金で買った、チョコレートケーキだった。
俺はあの時、ショートケーキだと言ってしまった。
「きっとチョコレートが嫌いなんだろうね…」
そんな事はないのに…。今更ながら自分を殴りたくなる。
「きっとその時に出会った人が犯人だね」
「ところで、誰が翔太さんを運んできたんですか?」
「ああ、それは中村って刑事ですよ。なんでも、筑波とか言う刑事も殺されていたそうです。発見した時は既に二人とも死亡だったそうで…」
「刑事…ですか?その人はどこに?」
「さあ、わかりません。一体誰が…したんでしょうね」
「これは想像ですが、猫神様の狂信的な信者による犯行かもしれません。猫神様も、生贄が一人では足りなかったんでしょう」
「猫神様を悪く言うのは止めろ!」
突然、誰かが怒鳴った。…ミーナだった。
「は…はい。すいません」
「他に考えられるのは…翔太さんがその刑事を殺したとしか…」
「そして、相打ちになって…二人とも死んだと…」
「仲間を疑うの?それはだめだよ」
「どうもその刑事がおかしいね…。本当にいるのか…」
「鼠谷の警察署に聞いてみましょう」
「頼んだよ」

その結果は…うちの署にはそんな人はいないという回答だった。
つまり、猫宮村を探ってる刑事は一人もいないということだった。

これが真相だったのか…。
12年連続で起きているとばかり思った殺人事件は、実はたった2年だった…。
去年に岡部さんが殺されて、今年は俺が殺された。
そのせいで、ネズミ役は必ず死ぬなんていう話を信じてしまった。
ただのデマだったんだ。
そして、俺が村人が殺しにきたと思って殺した人は…筑波刑事だった…。
いや、刑事じゃない。筑波と中村はただの殺人鬼だ。
あいつらは刑事のフリをして俺に近づいた…。
俺は仲間を疑っていた…。本当に俺が馬鹿だった…。
謝りたい気持ちでいっぱいだ。
俺が極端に怖がったから、みんなの目が怖く見えただけだったんだ。
ネズミ入りのケーキは、ネズミなんて入ってなかったんだ…。
ネズミ役の事に、あの話が重なって頭がおかしくなっていただけなんだ。

猫神様…。できる事ならもう一度…あの頃に戻らせてください…。
取り返しのつかない事になる前に…。
俺は…もう過ちを繰り返さない。
仲間を信じて、必ず事件を終わらせる!!
だから…猫神様!お願いです。もう一度!!

その時突然、俺の中から猫の鳴き声が聴こえた…気がした。
きっと、猫神様は俺に力を貸してくれたんだと思う。
俺は、目をそっと開けた。
これで何も起こらなかったら、潔く天に召されるつもりだ。
ここは…?
奇跡が起きたのか、それとも、今まで見ていたものが夢だったのか、確かに俺は猫宮村にいる。
そして、俺は部屋にいる。病院のベッドなんかじゃない。
今日は…8月3日だった。祭りの当日だ。
「俺は…戻ってきたんだ!今度は絶対に生き延びる!」
俺は深く決意した。
みんなには後で謝ろう。この日までみんなを避けていた事は事実だから…。
「さて…どうするか…」
犯人の名前をみんなに話すか…。
でも、岡部殺しの犯人は筑波と中村という事しか知らない。
それに筑波も生きている以上、捕まえるのは難しい。奴らは殺人鬼だ。
そんな事を考えていると、時間はとっくに昼を過ぎていた。
俺にとっては二度目の鬼ごっこの時間がきてしまった…。

「みんなに話しておきたい事があるんだ」
俺はもう過ちを繰り返すわけには行かない。仲間を頼ることにした。
仲間を疑う事はもうない。だから信頼できる仲間に話すのだ。
「どうしたの翔ちゃん?鬼ごっこの事なら安心して。私が捕まえるから」
「それは私ですよ!絶対に捕まえてあげるから」
「いや、その話じゃないんだ。聞いてくれ…」
「なんだか真剣だね…。何かあった?」
「ああ。俺は今から変な事を言うけど、真面目に聞いてほしい」
「翔太さんがそこまで言うなら、聞いてあげます」
「ありがとう。実は…」
俺はさっきまでの出来事を話した。
夢じゃないの?とか言われたが、かまわず話を続けた。
「ずいぶんリアルな夢ですね」
「夢だと思ってくれてもいい。でもこれはこれから起こる事なんだ」
「じゃあ、どうしろと?」
「俺が逃げたら、俺を捕まえに廃墟まで来てほしい」
「それは私たちも危険になりますね…」
「だから、なんでもいい。武器を持ってきてくれ。あいつらは拳銃は持っていない!」
「翔太さん…。父殺しの犯人は、その人たちなんですね?」
「ああ。間違いない。俺を信じろ!あいつらは刑事のフリをした殺人鬼だ」
「信じていますよ。必ず捕まえましょう」
「それは頼もしいな。あと、警察にも連絡してくれ」
「わかりました。それは僕がやりましょう」
これでやれるだけの事はやった…。
あとは…犯人が来るのを待つだけだ。

そして、鬼ごっこは始まった。
二度と過ちは繰り返さない。
俺はこの村で大切な仲間に出会えた。
この暮らしを邪魔する奴は絶対に許さない!必ず捕まえてやるぜ!
「なんか、翔ちゃんも猫役みたいだね」
「本当のネズミはあいつらだ。ドブネズミ以下だな」
俺たちメンバーは、地下室にいる。
全員ではない。俺とミーナとミチだ。
ミチはテープレコーダーを持っている。
これはあいつらがあの話をまたしてくれさえすれば、証拠になる。
これは俺が、挑発して奴らを乗せれば引き出せる。
琴子と花梨は、外の木陰に隠れている。近くの電話ボックスに嶋田がいる。
琴子とミーナはトランシーバーでやりとりができる。二人が来たらすぐに知らせるためだ。
「来たみたいだよ!気をつけて!」
「了解。翔ちゃんきたよ!」
「おう!わかったぜ」
「あれが…筑波と中村か…。警察っぽいけど、絶対違うね。あたしにはわかる」
「あの人が…父の仇なんですね」
そんな事を知らない二人の会話は…。
「岡部殺しを知られたからな…」
「口封じしないといけませんね」
あの時と同じだ!テープレコーダーにばっちり記録する。
大声で話してはいるが、距離が多少遠い。
しかし、周音マイクも持ってきているミチの用意のよさに驚く。
「ネズミがいるかもしれませんよ?ここって隠れ家にちょうどいいんですよ」
「ネズミはお前等だ!!」
俺は電光石火の如く地下室から飛び出した。
「うわっ!!!!やはりいたのか」
「お前が岡部さんを殺した犯人だな!」
「…知っていたか。なら話は早い。岡部は俺が殺した」
「お前もどうせ死ぬんだから、聞かせてやろうか」
「うちらが金貸したのをあの野郎は返さなかったからな。ちょいと痛い目に遭わせただけで死んだんだよ。借りたものは返すのが基本だろ?俺らは善人だぜ」
「まあ利子がほんの1000万だっただけだが」
その会話はしっかりと、テープレコーダーに記録された。
声を聞くのも気持ち悪い。こいつらは金融業だった…。
しかも不当な利子をつけるヤミ金業者…。
警察とは全く正反対の連中だったんだ。
「ははははは!!あんたらはもう負けだ!もう終わりだ!!この廃墟一帯警察が囲んでる!あんたらは袋のネズミだ!!貴重な話ありがとよ!」
「なんだと小僧!はったりのつもりか!」
「ぶっ殺してやる!!!」
「これが見えるか?」
俺は、テープレコーダーを奴らの前に見せ付ける。
「脅しのつもりか!その手には乗るか!」
「ちょっと後ろ見てくれよ。脅しじゃないぜ?」
「なに!!!」
「そこまでだ!警察だ!!」
「なんだお前等は!!うおっ!」
「はめやがったな!!」
警察官が数人がかりで、二人はあっさりと捕まった。
「挑発に乗ってきてくれて助かったぜ」
「詳しくは署で聞こう。連れて行け!」
警察が来てくれた。嶋田が通報してくれたおかげだ。
あいつらは手錠をかけられ、パトカーに乗せられた。
俺は、未来を変えたんだ…。やったぞ…。

つづく

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猫宮村に雫は落ちる…(6)

6.猫宮村に雫は落ちる…その壱

なんで電話にでないんだよ!捜査か何かで留守なのか…。
でも他の刑事くらいいるだろ…。
誰もいないなんて事は滅多にないはず…。
しかし、俺の期待とは裏腹に、何度かけても応答なしだった…。
もうあきらめよう…。
俺はもう会場に戻る気はない。このまま家で明日が来るのを待とう…。
その時だった…。
玄関のチャイムが鳴った。
俺は居留守を使うことにする。早く帰れ!
「翔ちゃん。いるなら返事して」
…誰が出るか。殺されに行きたくはない。
「おかしいな…。確かに家に帰るのを見たのに…」
「主役がいなきゃ祭りは終わらないんだよ!早く出ておいで」
…そんなことは知ったことか。
早く帰れ!
俺は窓から言い放つ。
「帰れ!帰らないと殺す…」
「あ…出てきてよ〜。翔ちゃん」
俺の目がおかしいのか…?
俺の家の前にはミーナと琴子しかいないと思っていた…。
でも、俺が見たのは…村人総出で、俺の家の前にいるのだ…。
全員、目が猫のように光っている。
俺は、もう駄目なのか…。
あいつらに殺されてしまう…。もうこれ以上は無理だった。
ここにいても、いずれ家にみんな飛び込んでくる…。
そうなったらそれこそゲームオーバーだ。
覚悟を決めて、空腹の猫たちの前に飛び出した。
「俺を殺すなら殺せ!!」
「何を言ってるの?翔ちゃんは生贄なんだから、会場に連れてくよ」
「ミーナには負けたよ〜。残念」
と、琴子が言った。
「あ〜あ。今年も捕まえ損ねたか」
「まあまあ。今年はミーナちゃんに譲りましょう」
村人たちも残念そうな表情をしながら、会場に戻っていった。
「私の勝ちだね☆」
「ああ、俺はミーナに殺されるのか…。残念だ…」
「あはは。ねぇ翔ちゃん、今何時か分かる?」
「6時過ぎてるんだろ?もう鬼ごっこは終わったはずだ」
「今は5時58分だよ〜♪腕時計壊れてるんじゃない?」
「あ…ほんとだ…」
俺の腕時計は、秒針が進んだり戻ったりを繰り返していた。
電池がきれていた事に、全然気づかなかったのだ…。
「俺の負けだな…」
俺は、ミーナに引っ張られながら会場に戻った。
処刑される重罪人の気分だ…。
いっそこの場で殺される方がマシかもしれない。

「では、この人形を祭壇の前に…」
祭壇の前には、学校で見た人形が置かれている。
メンバーたちは、「今年は生贄なしかとヒヤヒヤしましたよ〜」
「しかし翔太さんもやるね〜。あと2分でネズミの勝ちだったのに…」
「ミーナのカンは冴えてたねぇ」
などと楽しそうに俺の話をしている。
俺は、全然楽しくないんだが…。
祭壇の中心にある炎が、勢いよく燃え上がっている。
これが猫神様を光臨させる聖火らしい。
ほどなくして、猫神様を呼ぶ儀式が行われる…。
意味不明なお経を唱えながら、村人達も手を合わせて祈った。
俺もここまでか…。
過去に犠牲になった11人のネズミ役の事を思うと、こんなくだらない儀式に何の意味があるんだろうと思う。
生贄として差し出された後はあの炎の中に投げ込まれるんだろうな…。
これは魔女裁判の時の拷問で有名だったな…。
火あぶりにされて、苦しみながら死ぬ…。
「翔ちゃん大丈夫かな?」
「ああ、もう覚悟はできた。一思いにやってくれ!!」
「では始めます」
炎の中に俺は投げ込まれ……なかった。
人形が勢いよく燃え上がる。
「これで儀式は終わりだよ。お疲れ様」
儀式は意外とあっさり終わった。
「え?…嘘だろ?俺を殺して終わりじゃないのか?」
「殺すって…あの人形のことじゃないの〜?」
俺を安心させて後で殺すつもりなのだろうか…。
しかし、その後も何もなかった。俺は助かったのか…?
祭りはその後も大盛況のまま幕を閉じた。

その夜…。
油断はまだしてはいない。
ミーナの家は隣だから、いつ襲ってくるかわからない。
俺は部屋の中で息を潜める…。
その時…電話が鳴った。俺は受話器をとると、意外な人物からの電話に驚いた。
ミーナたちかと思っていたからだ。
「夜分遅く申し訳ございません。私は鼠谷署の中村と申します」
中村…?ああ、筑波刑事の相棒の刑事だ。
「どうかしましたか?」
「実は、筑波刑事が行方不明でして…。もしかしたらあなたが知ってるのかと思いまして…」
「いえ…。俺はしりません。今日は会ってませんから」
「そうですか…」
「あ、一つ聞きたいのですが、今日そちらに電話したのですが…誰もでなかったのは…筑波刑事の捜索のせいですか?」
「…まあ、そんな所です。電話をしてきたと言うことは、何か話があるんじゃないですか?」
「あ…それは」
俺は一通り説明した。すると、
「会ってお話しましょうか。いろいろ事情がありそうですね」
「ええ。俺はいつ殺されるかわからない。隠れながら行きます」
「では場所は…、ここから遠くに廃墟がありますよね?そこでお会いしましょう」
「廃墟…ですか?」
あそこはまずい…。なぜなら俺が殺した村人が、地下室にいる。
バレたら俺は逮捕されてしまう…。それはなんとしても見つかってはいけないのだ。
でも行かないときっと怪しまれる。
俺はしぶしぶOKした。

空が月の光のせいか、まだ明るく感じる。
俺は指定された場所に自転車を走らせた。足取りは重い。
筑波刑事が行方不明と言う話を聞いて、不安になってくる…。
まさか…。本当のネズミ役が筑波刑事で、誰かに殺されたのか?
もしそうなら…村人の中に犯人がいる…。
とにかく、事実を確認しなければ…。

廃墟までたどり着くと、中村刑事が待っていた。
俺に気づくと、ゆっくりと近づいてきた。
「お待たせしました。吉野翔太です」
「ああ、まっていましたよ…」
「あの…。筑波刑事はどうしたんですか?行方不明って…」
「いや、それがですね。見つかりました」
「え。ではどちらに…」
「この廃墟の中の地下室にね…」
「地下室…って」
心臓の音が、一気に早くなる。全身から汗が溢れてくる。
「まさか…今もそちらに?」
「ええ。行ってみて下さい」
…まさか。そんなはずはない…。
俺が村人を殺した事がバレるはずはない…。
でも、もしも知ってて誘導尋問しているとしたら…。
俺がやったという事を刑事は知ってて、誘い出したとしたら…。
俺は、まんまとネズミ取りに引っかかったのかもしれない。
行かなかった場合も、結局俺が怪しまれる。
どっちにしろもう逃げられない。
「さあ、中に入って…」
「はい…」
もう覚悟を決めるしかない…。
俺は、どんなにもがいても、ネズミ取りの粘着力にかなうはずもない。
しかし、地下室に入っても筑波刑事の声がしない…。
「筑波さん…?」
俺の目の前には、筑波刑事が倒れていた。
「これは…まさか!あんたがやったのか!あんたが筑波刑事を」
俺は中村刑事を睨みつけた。
しかし、彼は生気のない目で、俺に近づいてくる。
なんだか気味が悪い…。
「私はなにもしてませんよ?」
「う、嘘だ!!ここにあった死体をあんたが運んで、筑波刑事を!!あんたが殺したんだ!!」
「一つお聞きしたいのですが、ここにあった死体って何です?」
しまった…。
これだと、自分が犯人ですと言ってしまったようなものだ。
「それは…。俺が逃げてる時に、たまたまここに隠れたら、人が既に死んでたんです」
「それを誰かに言いましたか?」
「いえ。せっかくの祭りを壊したくないので、言いませんでした…」
「そうですか」
「後で警察には言うつもりでした」
「吉野さん。一つ言っておきましょう。最初から筑波刑事の死体しかここにはなかった…」
「な…!!」
「血痕を調べても、筑波刑事の血液しか出てきませんでした。これがどういう意味かわかりますか?」
「…筑波刑事が祭りの最中に…既に死んでいた…と?」
「あなたのお話から察すると、そういう事になります」
…まさか。嘘だ…。この刑事の話は全部嘘だ…。
だって…そうだろ?
俺を殺しに来た奴が、村人ではなく刑事だって事になるんだぞ…。
そういえば、もう一人仲間がいた…。
まさか…。中村刑事が…もう一人の仲間で、俺が殺したのが…筑波刑事だったのか。
「どうしましたか?吉野さん。気づいてしまいましたか?」
「気づいた…って、何をですか…?」
「あなたが筑波刑事を殺したという事ですよ。いい加減白状したらどうです?」
「お、俺は筑波刑事を殺してなんかいない!俺は…」
「ふふふ…もう芝居はよしましょうよ!続きはあの世でどうぞ…」
ザクッ……………。
…なんだ…。この感触は…。俺の中から…何かが…溢れて…。
ぽたぽたと…俺の中から、液体が流れてくる…。
「もう話すのは疲れた。筑波!ネズミは退治したぞ!!来年からは俺に任せろ!」
中村刑事が、突然…下品な声になった。
「あははははははははははははははは!!!!!!!!!!!」
「まさかあんたが…いや、あんたたちが岡部さんを…」
「ははははははは!!!あの男を殺すのは楽しかったですよ!」
「人殺しめ!」
「それはあなたもでしょう?」
俺は…腹を抑えて…血がでるのを…とめようとして…そのまま倒れた。

ポタッ……ポタッ……………。
こうして…猫宮村に雫が落ちた…。

この音は、血の雫か…涙の雫なのか…。

つづく
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2006年12月14日

猫宮村に雫は落ちる…(5)

5.猫宮祭その弐

今日は祭りの準備をする日だ…。
「今日くらいはみんなに会っておくか…」
俺は、今日会った後、みんなに二度と会わないようにしようと決心する。
とりあえず今日は普通に接しよう…。祭が始まるまでは怖がることはない…。
俺は会場である広場に向かった。
広場では、準備が着々と行われている。
大人に混じって、学校の生徒たちも手伝っている。
探検部のメンバーは舞台を設置していた。
おそれるな…。自然に声をかけるんだ。
「よう。俺も手伝うよ」
「あ、翔ちゃん来たんだ。風邪は大丈夫?」
「ああ。もうなんともないよ」
「だよね。だって、仮病だもんね」
「なんだ。知ってたのか…」
「うん。演技してたことはすぐわかったよ〜。琴ちゃんもすぐ見破ってたよ」
「なはは…」
「やっときたな。新入り君。仮病なんてしたらだめだよ」
「ああ、悪い」
「ところで翔ちゃん。ケーキ食べてくれた?」
「な…。もちろん食べたよ。ショートケーキがおいしかったぜ」
「え?私ショートケーキは買ってないよ〜?」
「食べてないんだ?嘘はいかんよ〜嘘は」
なんだよ2人とも…。ケーキって、あれには大量のネズミが…。
警告かこれは…。あの箱を開けましたか?というテストか…。
「そうか…。おいしいケーキだったよ!あれは誰がやったんだよ!」
「どうしたの翔ちゃん。怖い…」
「お前らが何をしようと俺は死なないからな!」
「…何を言ってるの?私は…翔ちゃんが元気になるように…」
「もういい。お前らの気持ちは良くわかったよ。岡部みたいに殺せると思うなよ!」
「…岡部?まさか…去年のネズミ役?」
「ああ。この村の誰かが殺したんだろ!死体がまだ見つかってないんだろ」
「あれは事故だったんだよ!犯人なんて誰もいない」
「嘘をつくな!もういい。俺は帰る」
俺は2人に背を向けると走り出した。その途中、花梨がいて、立ち止まる。
「言いましたね…。あなたは殺される…」
「お前にか?お前に俺が殺せるとでも?」
俺は花梨の肩を掴んで言う。
「私は殺したりしない!別の誰か…」
「誰だよそれは!」
肩を掴む手に力をこめる。痛みで花梨の顔が歪む…。
「…今のあなたには、真実を話しても…聞いてもらえないでしょう…」
「なんだ?言ってみろよ」
この時、俺は鬼のような形相をしていただろう…。怯えながら花梨は言った。
「去年のネズミ役の岡部は、私の父です」
「ほぅ…。父が憎いから、ネズミ役にして殺したと?」
「違う…。私はそんな事はしない…」
「どうだか。怪しいな。どうせお前らはグルなんだろ!」
「そんな…」
「もういい。俺に構うな!俺はお前らに殺されたりはしない!」
そう言い放つと、俺は困惑顔の花梨を見向きもせず、走った…。

さて、俺にはやらなければならない事がある。
本番はどこに隠れるか…。誰も見つけられない場所にいたら大丈夫だ。
これじゃ鬼ごっこじゃなくてかくれんぼだな…。
あと5日しかないんだ…。迷ってはいられない。
この村の奴らは、全員敵だ。
俺は村から逃げることも考えていた。でも、そうすると両親が危ない…。
代わりにネズミ役にされて殺されるかもしれない…。
「逃げ道なしか…」
俺は必死で隠れ場所を探す…。その後ろで、足音が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは…。
「おや?あなたはあの時の…。死体でもお探しですかな?」
「…あなたは…。あの時の刑事…」
「覚えていてくれましたか。鼠谷署の筑波です」
そうだ!警察に話せば…助かるかもしれない…。
でも、証拠もなしに動いてくれる訳がない…。
あのネズミ入りの箱は、窓から捨てた。
それに花梨の脅迫も、言った所で信じてもらえるはずがない。
「しかし、見つかりませんね…。死体は処分されたと報告しますか…」
「いいんですか?筑波さん」
「まあ今年の猫宮祭で犯人が動きだすかもしれないな…。それまで待つか」
「どうしてそれがわかるんですか?」
「ああ、知らないみたいですね。実はネズミ役の人は11年連続で死んでいます」
「な…!」
「今年も死人が出たら、12年…。十二支を一回りしますね…」
「そんな…。なんだよそれは…」
「ここの住人をみんな調べてみたんですよ。小さな村ですからあまり時間はかかりませんでした。それで、毎年、ネズミ役の人が死んでるんですよ!しかも死体が見つからなかったのは去年の岡部さんが初めてなんですよ!」
「…嘘…だろ」
「まさかあなたは…今年のネズミ役ですか!?」
「…ああ…」
「それは刺激が強い話をしてしまいましたかな…」
「俺は死なないから、大丈夫です」
「そうですか。もし危険だったら警察で保護しますから、いつでも言って下さい。これは私どもの警察署の電話番号です」
と言うと、筑波刑事に電話番号をメモした紙を渡された。
「ありがとうございます…」
「では、私はこれで…」
これで良かったのか俺は…。全部話して助けてもらう方がいいんじゃないか?
まあ、でもこれで連絡はできる。俺は武器を手に入れたんだ。
しかし…12年前から毎年ネズミ役が死んでるなんて…。
誰も言ってなかったのに…。
もはやネズミ好きの猫神様の気まぐれにしか思えなかった…。

結局、隠れる場所も何も見つからないまま、当日の昼を迎えた。
そろそろ祭りが始まる時間だ…。
「今日が最後になんてなってたまるか!」
俺は遺言は書かない。もちろん死ぬ気はないから、書く必要もない。
「武器は持っておくか」
俺はポケットに折りたたみの果物ナイフを入れる。
何かあれば、これで刺せば何とかなるはず…。
傷を負わせることが出来るし、うまくいけば殺せる…。
持ち運びに便利だが、リーチが短いのが難点だ。
まあ、取っ組み合いになれば、勝機はある。
そして、俺は祭りの会場へと向かう。
今日は親は不在だった。仕事の関係で出かけている。
「じゃあ、いってくるぜ…」

会場には、村中の人々に混じり、メンバーのみんながいた。
もちろん挨拶はしない。俺は離れた位置にいて、怪しい行動をしないかと、視線を向ける。
「では只今より、猫宮祭を開催致します」
と係りの人がスピーチする。そして村長の挨拶が始まった。
「え〜。私が村長の猫宮秀吉です。本日はお日柄もよく…」
などと朝礼の校長先生の長話のようなトークが始まった。途中で係員がさりげなく止めに入る。
「え〜、では今年の鬼ごっこのネズミ役は、壇上へ…」
「はい…」
「では、只今から鬼ごっこを始めます。ルールはネズミが逃げてから30分後にスタートします。ネズミを捕まえた人は、一年間猫神様のおかげで幸せになります。また夜6時まで逃げ切れた場合、ネズミが幸せになります」
「おーーーーー!!!」
大歓声が沸きあがる。みんなそれぞれ、自分が捕まえるものだと思い込んでいるらしい。でも、俺は誰に殺されるわけにもいかない…。
「ではスタート!!ネズミ役の方は逃げてください」
始まった…。俺の、最も長い1日が…。

俺は会場を離れた。まずはどうする…。
誰にも捕まってはいけないんだ…。
とにかく村外れに行くことにする。ここから走って30分で着くだろうか…。
まあ、俺が行く場所なんてわからないだろう。
しばらく走り続ける…。
「…ん?あれは」
ここはあの日探検した廃墟だった。
「どうしてこんな事になったんだろうな…」
あの日、刑事の話を聞いてしまった…。その後、この廃墟に来たんだ。
何も知らなければ、楽しく廃墟探検なんかして、隠し部屋を見つけてはしゃいでいたかもしれない。俺が死ぬその日まで…。
「そうだ。何か隠し部屋があるかもしれない。あいつらはないって言ってたけどな…」
俺は雑草の中を掻き分けて入っていく…。廃墟の中は薄暗かった。
木の柱が倒れて床に散らばっている。
木をどかしてみる…。
結構重いが、なんとか横にそらすことができた。
その中に…俺は見つけた。
それは地下に続く階段だ。
「あったじゃねえか…琴子」
あの時、ないって言ってたのも嘘だったんだ。あいつらは嘘つきだ。
俺は埃っぽい地下室に入る…。
もしかしたらここに…死体が?
しかし…そこには何も見あたらなかった…。ただの狭い四角い空間があるだけだ。
「まあここにいて時間まで粘れば…俺の勝ちだ」
そんな俺の考えは…甘かったことを知った…。
足音が、上から聞こえてきたからだ…。
「きっとここにいるはずだ」
「必ず捕まえろ!」
…誰だ…。今まで聞いたことない声だ。大人の人らしいのはわかる…。
「岡部の奴を殺した事を知られたからな」
「口封じしないといけませんね」
…まさかこいつらが…連続殺人事件の犯人?俺は12人目の被害者に…。
俺は果物ナイフを掴む。もし地下室に来たら…その時は…。
「おや?これは隠し部屋ですかね」
来た…。心臓がはちきれんばかりに鼓動する。いくか…。
「ネズミが逃げ込んでるのかもしれませんよ?」
「まさか、こんな所にですか」
…早く帰れ…。
相手は2人らしいことは会話からわかるが、もしのこのこ出ていって、村人たちに囲まれていたら…。
中に入ってきたら殺す…。
ここなら狭いから1人しか入ってこれないはず。
ガタンと音がして、中に誰か入ってきた。
今だ!
俺は、とっさにその人に襲いかかった。
暗くて顔はみえないが、体格の良い、力の強い男というのはわかる。
殺らなきゃ殺られる!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
鬼神の如き咆哮を上げ、一気に襲い掛かる。
先手必勝だ!!くたばれ!!!
「ぐああああっ!!!!!!!」
俺は相手のわき腹をナイフで突き刺した。
相手は刺されたわき腹を抑えている。今のうちに…とどめを。
「くそっ!やはりいたのかネズミめ…ぐふっ」
「しゃべるな!こいつめ!死んでしまえ!!!」
俺は、相手の顔に何度も切りつけた。ぷしゅっと音がして、液体が飛び散った。
「うぎゃぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
「くそっ!こいつめ!こいつ!」
殺さなきゃ…。こいつを…。体をメッタ刺しにする。
しばらくすると、ぴくりとも動かなくなった…。
「やったか…」
ぐったりした相手の手を刺してみるが、反応はない。
「あと1人いたはず…。こうなったらとことんやってやる…」
俺は地下室から出た。死体は放っておく。
どうやらもう一人は逃げたらしい。誰もいない…。
「俺は…ついに命を狙われた…。これは正当防衛なんだ」
ほっとして座り込んだ。
外は夕方になっていた。腕時計を見ると、時刻は夜6時を過ぎていた。
鬼ごっこは終わりの時間だ。
たくさんの返り血を浴びて、服は真っ赤に染まっていた。
「さすがにこれで行くわけにはいかないな…」
俺は誰にも見つからないように、家に向かった。

家に着くと、血の付いた服を着替える。肌に付いた血は濡らしたタオルで拭く。
「これでよし…」
あとは会場に戻らないと…。俺は生きてたと証明するんだ。
「警察に電話しておくか…」
もし何かあったら筑波刑事に助けてもらえるかも知れない。
さすがにみんないる前で殺されたりはしないだろうが、生贄にされる場合は…みんなの前で殺される…。
その場合、警察がいれば頼りになる。
俺が殺した村人は、言わなければ大丈夫…。
もう一人いたが、警察には話せないはず…。
俺を殺そうとした奴らだ…。自分も捕まるかも知れないリスクは負わないはず…。
俺は、電話をかけた。
しかし…誰もでない…。
おいおい、出てくれないと困るぜ…。
しかし…何度かけても、でなかった…。

つづく

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猫宮村に雫は落ちる…(4)

4.猫宮祭その壱

その刑事2人の話が、ものすごく気味が悪い…。
去年の猫宮祭のネズミ役が…殺された…。しかも、死体がでてこない…。
俺は、ショックのあまり、その場から動けずにいた。
「おや?聞いていましたか」
…見つかった。刑事の一人は怯える俺を見て、言い放った。
「まさか、あなたが今年の生贄かな?」
「…あ」
「いや、冗談ですよ。お気になさらないで下さい。私たちは鼠谷の刑事です。私は筑波という者です…。で彼が中村。訳あって、この村を調べているのですよ」
「…そうですか」
なんだか嫌な予感がする…。会ってはいけない人に会ったような…。
「それであなたの話をお聞きしたい」
「残念ですが、俺はこの村に来てまだ日が浅いので…答えることはできません」
「そうですか…。では失礼します」
と言うと、筑波と名乗る刑事はパトカーに乗り込み、去っていった。
「…なんだよ。さっきの話は…」
俺は、去年のネズミ役のように殺される…?
まさか…。そんなはずはない。あの刑事の話は何かの間違いだ。
自分にそう言い聞かせ、俺はみんなが先に行った廃墟に向かった。
もう忘れよう。その話は…。
しかし、なにか引っかかった。被害者の名字が…岡部ということだ…。
花梨と関係があるのか…誰もいないときに聞いてみよう。

「お、やっときたね」
「翔ちゃんどこまで走ってたの〜?」
「いや、ちょっとな…。夢中になりすぎて、つい遠くまでいってきたよ」
「そっか〜。頑張ってるね〜」
「ありがとな」
「もう〜。待ちくたびれたよ〜」
とりあえず謝っておくことにする。
「で、この廃墟に何かあったのか?」
いまにも崩れ落ちそうな家が建っている。外壁は剥がれ落ち、部屋が丸見えだ。
入り口まで行こうにも、草が中学生の背丈ほどに伸びていて、移動が大変そうだ。
「いやぁ〜。なんか隠し部屋があるかな〜と思ったんだけどね。何もなかったよ」
「そっか…。残念だったな」
「隠し部屋に死体でも出て来たらびっくりなんですけどね」
「…死体?」
俺は嶋田の何気ない一言に、反応する。
「いやだなぁ先輩。冗談じゃないですか。顔が怖いですよ」
「ああ。悪い悪い。学校の件があったから、またみんなで騙してるんじゃないかと思っただけだ」
「あれは新入り君を試しただけだよ。見事騙されてくれておもしろかったよ」
「そうか…」
まだあの刑事の話が、頭にこびりついて離れない…。
その後は何事もなく、解散した。
帰る前に聞いておかなきゃならない人がいる。
花梨に、岡部という人の話をしなければならない…。
でも、今日はみんないるので、話はできそうもない。
学校で話そうにも、夏休み中の今、話ができる機会は限られている。
俺はみんながいない隙に、花梨に話しかけた。
「なあ花梨。ちょっといいか?2人きりで話がしたい」
「いいですけど…。告白なら今ここでしてもいいですよ♪」
「いや、そういう話じゃないんだが…」
どうやら2人きりと聞いて、俺が花梨に告白すると思ったらしい。
「真面目な話だ。後で2人きりで会いたい」
「う〜ん。まあいいですよ。翔太さんには興味あります」
「…ん?」
まだ何か勘違いしてるみたいだが、なんとか約束は取り付けた。後はみんなが解散するのを待つだけだ。
「何もないなぁ〜。珍しいものでもあればよかったのに」
「今日は解散だね〜。この村はもう随分探検したしね」
「そろそろ廃部かなぁ〜。探検するところは殆どないしね」
「待てよ。俺が入ったばっかりで廃部は嫌だが…」
「まあ、まだ廃部にはしないよ。あたしが卒業するまでは続けるつもりだよ」
「そっか。まあ俺が受け継いでもいいぜ」
「それは頼もしいね。是非お願いするよ。ではこれにて解散!」

「翔ちゃん帰ろ〜」
「あ、ごめん。ちょっと用事があるんだ。悪いけど、先に帰ってくれないか」
「え〜。一人だと寂しいな〜」
「ほんとごめんな」
「まあ、先に行ってるね。用事が終わったら走ってきてね」
「ああ。わかった」
俺はミーナと別れると、花梨が待っている木陰に向かう。
どうやらみんな帰ったようだ。周りには誰もいないことを確認すると、俺は話を切り出す。
「なあ。突然変な事聞くけど、去年のネズミ役についてなんだが…」
「どうかしました?鬼ごっこのやり方が解らないなら教えますよ?」
と、花梨は笑顔で答えた。
「いや、鬼ごっこのやり方が聞きたいんじゃない。俺はそのネズミ役の人について聞きたいんだ!ネズミ役の人が死ぬって話は本当か!」
「…どこから聞きましたか?」
「え?」
「もう一度言います。誰から聞きましたか?」
…彼女の目つきが…変わった!?なんだよ…その顔は…。
「翔太くん?どうしたの?答えて…」
「…いや。刑事が去年のネズミ役について嗅ぎ回ってるのをみたんだよ。その刑事が言うには、去年のネズミ役は岡部って名字の人らしいんだ。もしかしたらと思って、花梨に聞いてみようと思ったんだよ…」
「その話はするな」
「え…?」
その声は、今までの彼女の声とは明らかに違った。変声機を使って野太くしたような声だ。
「もう一度言う。その話はするな。したらお前は…殺される」
「…な…に」
彼女のその警告に、俺はそれ以上何も言えなかった。
しかし、これで間違いない。岡部という人は花梨に関係している。
家族か、または親戚かもしれない。
そして、この村で殺人事件があったことも…。
「わかった…。この話はもうしないよ」
彼女に圧倒されて、膝が震え出す。
「わかってくれればいいですよ」
いつもの花梨の声にもどる…。さっきまでのは一体何なんだよ。
「ではまた明日、いつもの集合場所で」
「ああ…。またな」
花梨は手を振って、笑顔で帰っていった。
「…くそっ。なんだよあれは…」
目が、まるで暗闇の中の猫のように、大きく見開き、光っていた。
落ち着け…。あれは幻覚だ。人があんな目をするはずがない…。声も幻聴だ。
変な話を聞いたから…おかしくなっただけだ。
「…帰るか」
俺は、走って家に帰った。
ミーナはどうやら先に家についたらしく、会うことはなかった。
「おかえり翔太。どうしたの?その汗」
「いや。走って帰ってきたから、汗かいたんだろ」
「そう…。お風呂沸かしておいたから入ってね」
「ありがとう母さん…」
風呂に入ってさっぱりして、嫌なことは忘れよう。明日の部活は楽しく過ごすんだ…。

その夜は…眠れなかった。なんだか嫌な方向へと考えてしまう。
探検部は名前だけで、実は岡部という人の死体を探しているんじゃないか…とか、死体は実は本当に学校においてあるんじゃないか…とか嫌な想像ばっかりだ。
「…俺も、鬼ごっこでみつかったら…殺されて…死体を隠される…」
考えたくもない事だったが、一度考えだすと止まらない。
なんで俺がネズミ役なんだよ…。他にもいっぱい人はいるのに…。
ネズミ年なら、遅生まれじゃない限りミーナだって一緒のはず…。
みんな俺なんか死ねばいいと思ってるんだ…。
少なくとも花梨はそう思ってるかも知れない…。
だから、俺を今年のネズミ役に選んだ…。村長が選んだって嘘をついて…。
思い出せ。猫宮祭では生贄がいたんじゃないのか…。その生贄は、あの人形じゃなく…俺なんじゃないのか…。
あの人形はカムフラージュだ。俺が…生贄になるんだ…。
「8月3日…か。なんとしても逃げ切ってやる…」
俺は、8月3日をXデーに定めた。

翌日、俺は部活に行かなかった。
迎えにきたミーナに、風邪をひいたと仮病を使った。
「悪いな。しばらくいけそうにないとみんなに言っといてくれ」
「大丈夫?夏風邪はたちが悪いから気をつけてね」
「ああ、わかった。ありがとな」
ミーナが心配してくれる事に、少なからず罪悪感がこみ上げる。
でも、いくわけにはいかない…。花梨がいつまた豹変するかわからない。
襲ってくるなら、鬼ごっこの時だろう。その前に襲うことはないはずだ。
「なんで俺は…下級生に怯えてるんだ…」

夕方になった頃、ミーナと琴子がお見舞いにきてくれた。花梨がいなくて、少しほっとした…。
俺は仮病だから、玄関で返そうかと思ったが、母がせっかくお見舞いに来てくれたんだから!と中に入れた。
そのせいで、俺は演技をし続けなければならなくなったわけだ。
とりあえず、部屋に案内する。多少散らかってるが、まあこの程度なら大丈夫だろう。
「翔ちゃん大丈夫かな?」
「ああ。まだ頭がふらふらするけど…」
「これはお土産だよ☆みんなでケーキ買ってきたんだよ〜」
そう言うと、ミーナは机にケーキの箱を置いた。
「あたしらもお金出したんだ。これ食べて元気出してくれないとね」
「ありがとう。みんな…」
ますます罪悪感がこみあげてくる…。
俺が殺されるなんて、思い過ごしなのかも知れない…。
「じゃあ、私たちは帰るね。病人なのに長居しちゃ悪いもんね」
「それじゃ、また〜」
「ケーキありがとな。元気になったらまた行くよ」
「その時には猫宮祭の準備の手伝いだね。男手があると助かるから是非治してもらいたいね」
「あぁ。わかってるって」
二人を見送ってから、机の上にあるケーキを食べようと思い、ふたをあける…。

そこには…。
「な…。嘘だろ…」
ケーキはどこにも見当たらない。
その箱の中には…ネズミの死骸がぎっしり詰まっていた。
胴体を喰いちぎられ、腸が飛び出したネズミも混じっている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺はその箱を、窓から思いっきり投げ捨てた。
あの2人も…俺を殺そうとしている…。
突然の吐き気で、気分が悪くなる。
「くそっ…。なんて嫌がらせだよ…。もはやギャグじゃすまされないぞこれは…」
何を言ってるんだ俺は…。これは…脅迫なんじゃないのか…?
「殺されてたまるか…。絶対に…」

そして、7月29日を迎えた。祭りまで、あと5日…。
村の広場で祭りの準備が進められている。
俺も準備しないとな…。もちろん逃げ切る準備だ。
誰もいかない場所を見つけるんだ!
そして俺は隠れてXデーをやり過ごすんだ!

つづく
posted by にゃむ at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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