2月22日…。祭り当日の朝を迎えた…。
太鼓の音や笛の囃しが、祭りの雰囲気を盛り上げている。
その音は、閉じこめられている私の所にも聴こえた。
その音が聞こえるということは、もうカウントダウンが始まっているのだ。
今日、私は殺される…。その事実は絶対に覆らない。
せめて、楽に殺してほしい…。
「猫神様…。本当にいるのなら…私を助けて…」
その願いは…届かなかった。
だって…猫神様と言う神様は存在しないのだから。
いない神に願っても、意味がない事だった。
その証拠に、猫がやってきた。猫の目をした人間が…。
竹村さんだった。
「今日がお前の最後だ。何か言いたい事があるなら聞こう」
私は、一息ついてから応えた。
「…私はあなたが好きでした」
「そうか。そいつは嬉しいな」
「でも今は…憎い!あなたも英子も!村長もみんな憎い!!」
私は竹村さんを睨みつける。彼はそれにまったく動じない。
「あはは。いいねその目。僕は好きだよ」
「…くっ!」
「祭りは夜からだからね。それまで休んでて」
彼はそう言うと、食事を置いて出ていった。
食事はもう手をつけたくない。
そのまま深い眠りについた…。昨日は眠れなかったから、限界だった。
目を覚ます前に、全て終わっていたら…少なくとも儀式を見ずに済む…。
だからこのまま起きたくなかった…。そんな訳にもいかないのだが…。
目が覚めた時、男がいた。どうやら迎えが来たらしい。
「時間だ。こい」
牢の鍵を開けた。
逃げるなら今はチャンスだ…。
でも私は逃げなかった。
空腹で体力もなくなって、逃げ切れる自信がない。
「祭りが始まったんですね…」
「あなたは主役ですからね。あなたがいないと始まりません」
私は覚悟を決めて、立ち上がった。
「早く連れて行って!!」
「ではこちらに…」
私は神社の祭壇に連れられた。
鮮やかな炎の中、祭囃しが聴こえてくる…。
村人たちのように、今年も楽しい祭りをしたかった…。
今年の祭りは、去年とは明らかに違った。
「ここに地下室があるんですよ。ここで儀式を行います」
「こんな所があったのね…。知らなかったわ」
「あなたには知らせていませんから…。ではこちらに…。みんなお待ちかねです」
中には数人の男たちが、異様な目つきで、台を囲んでいた。
私は、全裸で台の上に拘束された。両手両足の自由を奪われた。
「私を殺すなら早くして!!」
「いや、殺すのは後じゃ。先に愉しませてもらうぞ」
その声は、村長だった。
私の知る藤吉郎おじいちゃんとは全く違う、恐ろしい声…。
「おじいちゃん…」
村人の後ろから姿を現した。
「まだわしをおじいちゃんと呼んでくれるのか…いい子じゃの」
「お前は…悪魔だ!!私のおじいちゃんを返せ!そしてお前は消えろ!!」
「わしはここにいるではないか。わしが見えぬのか?」
私の知る藤吉郎おじいちゃんは…こんな顔をしない。
こんな酷い事をするはずがないのだ。
「おじいちゃんの振りをするな!」
「ははは。最後にお前に教えてやろう。猫宮祭の儀式を…」
それは、毎年鼠谷村の人や村八分の人をさらって、生贄にして愉しむというものだった。
「昔から良く言うじゃろ。生贄の処女の血を神に捧げるとご加護があると…」
猫宮祭の儀式とは、ただ欲望を満たす為の行為をすることだった。
猫神様に捧げるのではなく…自分たちが神様で…私は村人たちの生贄という事だった。
私は最後に訊いた…。
「猫神様は本当にいるの?」
「そんな神様いるわけないじゃろ!いると信じる奴らが村にいるから、その村人の為に猫神様を奉ってるふりをしてるだけじゃ」
と、村長は言った。
それは猫神様の存在を根底から覆すものだった。
「やはり猫神様はいなかったのね…。いたら私を助けてくれるはずだもの…」
「話はもういいじゃろ。さっそく始めるとしよう」
儀式は始まった…。
それはただ苦痛と恥辱で…儀式とは名前ばかりの行為だった。
その中で、私は決心する。
私が猫神様になる!!そして、村に天罰を与えてやる!!
二度とこんな儀式が起こらないように…。
私はこの日を絶対に忘れない!!
猫神様になって、村の行く末を見届けてやる!
そして大声で笑ってやる!ざまあみろって…。
「あはははははは!!!!」
「何がおかしい!」
藤吉郎は驚きのあまり叫んだ。あまりの気持ち悪い顔に虫酸が走る…。
「あんたらの顔は忘れない!必ず私が猫神様になってあんたらを地獄に落とす!!!後で後悔しても!もう遅い!!あはははははは!!!」
「こいつ…。もういい!殺せ!殺せぇ!」
「あはははは…はは…は…」
私は、声が出なくなるまで笑い続けた。
その声は…止まった。
私は殺されたのだ。
心臓にナイフを突き刺すと言う、やけにあっさりとした殺し方。
彼らにとって儀式とは殺すことじゃなく、その前の行為だから、殺し方は何でも良かったのだろう。
私は死ぬ直前まで願い続けた。
私は猫神様になる!!そして罪深き彼らに天罰を下す!!
……………………。
その年…大きな地震が猫宮村を襲った。
関東大震災だった。
多数の被害者を出したこの震災で、猫宮村の住人の多数が死亡した。
猫宮藤吉郎や…竹村さん、中野英子らも、犠牲になった。
しかし、驚いたことに鼠谷村の村人全員と、猫宮村の村人の半数は奇跡的に無事だった。
これは猫神様が守ってくれたんだ…。と人々は言った。
それはますます猫神様信仰を強め、しばらくは村人を生贄に捧げていたが、いつしか生贄に人を使うこともなくなった。
変わりに人形を使ってそれを生贄に捧げ、燃やすという儀式に変わった。
猫神様なんだからネズミを捧げればいいのにと思うが、昔からの伝統は消えなかったらしい。
退屈な祭りを盛り上げる為に、鬼ごっこを遊びに取り入れた。
時代の変化だろう。
そして、猫宮村と鼠谷村は僅かだが友好的な関係を築いていった…。
こうして、猫宮祭は今もずっと続いている…。
生贄の真実を知ることのない人々によって…。
「これが私が見た猫宮村…」
私は初め猫神様になった時、この村が滅べばいいのにとすら願った。
地震が起きたのは全くの偶然で、私のせいじゃない。
偶然で猫宮村に天罰が下った。だから私はもう恨む事を止めた。
ただ傍観するだけになった…。
でも、最近面白い人が現れた。
それが吉野翔太だった。
「これからは楽しくなってきそうね…」
私はまた猫神様物語と書かれた童話を手に取る。
「だからこれは捨てた方がいいわね」
私は童話を火に投げ込んだ。
その本は、白煙をあげて消えた。
これからどんな事が起きるのか…私はまだ見守り続けなければいけない。
私はこれから、猫宮村の未来を見届ける…。
猫神様は私だから…。
おわり
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あとがき
いかがでしたでしょうか(-ω-)
これでひとまず、猫神様物語は終了です。
次回作はまた違ったジャンルの作品を書きたいと思っています。
この作品は、前作の続編というか前編という位置付けになっています。
まあ、既に次回作は書き始めているのですが、発表はいつできるやら・・・w
ではまた(-ω-)
にゃむ
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